【新・民主党解剖】第4部 2010・4月 産経新聞

【新・民主党解剖】第4部 失望と動揺 (1)「裸の王様」次に座るのは…
4月26日7時56分配信 産経新聞


 ■顔色変えた首相

 春とは思えぬ冷たい小雨が降りしきった4月17日土曜日。民主党選対委員長の石井一は独り、公邸に首相の鳩山由紀夫を訪ねた。

 「(勝敗を決する)1人区が、かなり厳しいことになっとる」

 夏の参院選情勢を伝え、選挙戦にも悪影響を及ぼしつつある米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾(ぎのわん)市)移設問題の早期解決を促すためだった。具体的な当落予想の数字を聞いた鳩山は顔色を変えた。

 「えっ。そんなことになっているんですか。もっと早く進めなければ…」

 4日後の21日に開かれた党首討論終了後。自民党総裁、谷垣禎一(さだかず)との討論で「私は愚かな首相」と認めた鳩山に、石井が会場でこう叱(しか)りつける姿があった。

 「何を言うとんねん!」

 民主党のベテラン職員は「首相は、幸夫人がインドの占い師から『普天間問題は米国が譲歩して解決する』と言われたので楽観していた」との党内で広まったうわさ話を紹介する。そして、こう付け加えた。

 「こんなうわさが流れること自体、おしまいだ」

 鳩山は、普天間問題の5月末までの決着に「職を賭す」と言明している。だが、閣僚の一人は鳩山内閣のお寒い現状を明かす。

 「閣僚懇談会などでも普天間の話題は全然出ない。みんな避けている」

 誰も鳩山に厳しい現実を告げない。王様は、自分が裸だと気付かないままだ。

 ■小沢支配への嫌悪

 副総理・財務相の菅直人、国家戦略担当相の仙谷由人、総務相の原口一博、外相の岡田克也…。

 党内ではポスト鳩山候補の名前がささやかれているが、誰が次の政権を担うにせよ、幹事長の小沢一郎の支持取り付けが大前提だ。

 とはいえ、それはあくまで党内事情でしかない。小沢が党内支配を固めるのに反比例して、その手法に嫌気が差した無党派層が去り、内閣や党の支持率は低落に向かっている。

 18日に小沢が地元、岩手県奥州市の体育館で営んだ両親の大法要。参列者の案内状には通し番号が振られ、出欠は「踏み絵」のようにチェックされた。だが、側近らが「3500人は集まる」と豪語していた参列者は、主催者側の発表で約2500人にとどまった。

 平成7年に同じ体育館で催された小沢の母、みちさんの葬儀には約6千人の弔問客が訪れていた。

 ■関係良好な2人

 鳩山と小沢。ともに「政治とカネ」の問題を抱え、一蓮托生(いちれんたくしょう)の間柄だとみられがちだが、党長老議員はそんな見方を否定する。

 「小沢はそんな生やさしいタマじゃない。鳩山だけクビのすげ替えをしようとしているんじゃないか」

 ポスト鳩山とされる人物のうち、小沢と関係が良好なのは菅と原口の2人だ。

 「鳩山さんが退陣したら、やっぱり菅さんが(首相に)昇格でしょうかね」

 今月上旬。ある省の政務三役会議で政務官が何げなく尋ねると、閣僚は無言でうなずいたという。

 「彼は首相候補なんだ。よろしく頼みますよ」

 3月17日、都内で開催された原口のパーティー。小沢側近の一人である党国対筆頭副委員長の松木謙公は、笑みをたたえながら来場者らと握手を交わしていた。また、原口は若手議員を集めた勉強会を開き、支持グループづくりを進めている。

                   ◇

 □いつまでもつか「小沢神話」

 ■「敵は内側に」

 「外の敵は怖くない。党内で議論するのはいいが、ゴタゴタしては決められるものも決められない」

 今月19日夜、青森市で開かれた民主党青森県連幹部らとの懇親会。幹事長の小沢一郎は党内の混乱に不快感を隠さなかった。

 その真意について小沢系議員は、「(メディアで小沢批判を繰り返す)副幹事長の生方(うぶかた)幸夫への批判だ。敵は自民党ではなく内側にありだ」と解説する。

 生方は翌20日、都内のホテルで朝食会を開いた。3月下旬の副幹事長職の「解任撤回騒動」以降は小沢批判の発信を控えてきたが、この日解禁した。

 「われわれが選んだのは首相だけだ。首相が幹事長を選んだにすぎない。放っておけば内閣支持率は20%を切ってしまう」

 3月31日には、連合静岡会長の吉岡秀規が小沢に幹事長辞任を促した。今月12日には、岐阜県連が党体制刷新を求める申し入れ書を党本部に提出した。

 抑圧された「反小沢」のマグマはたぎり始めている。

 ■多勢に無勢

 ただ、423人に上る党所属の衆参両院議員のうち、約3分の1を小沢系議員が占めるといわれる現実は無視できない。「数の論理」の前には、何を言っても多勢に無勢だ。

 首相の鳩山由紀夫の代表任期は9月で満了だ。そのとき鳩山が続投しているかどうかにかかわらず、代表選は実施される見込み。その事実が「数」を握る小沢の力を際立たせている。

 中堅議員は「生方騒動」はすっかり過去の話だと話す。今月初めに2度、都内の料亭などで生方を励ます会が開かれたが、顔を見せたのは1度目は生方を除き4人。2度目も8人だけと寂しいものだった。

 小沢に距離を置く財務副大臣の野田佳彦ら「民主党七奉行」の間ですら、小沢に対する主戦論は影を潜めている。

 「参院選で負けて小沢に責任を取ってもらうのも一つの方法だ。いずれにしても小沢(の政治生命)はこの先2、3年だろう」

 七奉行の一人はこう言うが、参院選前には手が出せないという意味でもある。

 ■カギはやはり選挙

 この閉塞(へいそく)状況に変化をもたらしつつあるのが、皮肉にも小沢が最も重視する選挙の結果だ。選挙に強いという「小沢神話」がほころび始めているのだ。

 推薦候補が10万票近い大差で敗れた2月の長崎県知事選をはじめ、民主党は地方選で苦戦している。

 最近の首長選をみると、鳥取市長選、千葉県木更津市長選では敗退した。岡山県浅口市長選では、副総理・財務相の菅直人の義兄が元自民党県議に敗北。小沢の地元・岩手の久慈市長選では、民主推薦の新人候補が現職に敗れ、小沢銘柄に陰りが見えた。

 今月12日、党本部。世論調査によっては政党支持率で自民党が民主党を上回る中で、小沢は記者会見で自信たっぷりに強調した。

 「心配しておりません。新聞やテレビの世論調査は当たったことがない」

 だが、実際はここ数年のメディアの選挙前の世論調査は、かなり正確に選挙結果と合致している。

 民主党の非改選議席は62で、目標の単独過半数には60議席以上が必要だ。だが、選対幹部の予想は「53程度」。さらに悪化する可能性も高い。

 「私がもう10歳若ければ、自民党も立て直してちゃんとした二大政党を作るが、70歳まであと3年しかないからなあ…」

 小沢は最近、周囲にたびたびこう漏らしている。強気な姿勢の裏側に、自らの年齢と健康状態への焦りもうかがえる。

                   ◇

 鳩山政権の凋落(ちょうらく)が止まらない。高い支持率で船出した内閣は、7カ月余りがたった今、国民の失望を買い、呆然(ぼうぜん)と立ち尽くしている。参院選敗北を予期した動揺が広まり、水面下で「ポスト鳩山」への準備と策動も始まった民主党の実像を描く。(敬称略) 

【新民主党解剖】第4部失望と動揺 (2) 身に迫る「国民の軽蔑」 


 ■官房長官更迭論

 産経新聞とFNNの世論調査では、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾(ぎのわん)市)移設問題にかかわる政府対応を評価する人は、わずか8.9%と1割にも満たない。

 政府はこの問題をめぐって政権発足から7カ月間、袋小路をさまよった。その結果、現在は一巡してもとの日米合意に基づく現行案に近い名護市辺野古に杭打ち桟橋方式による滑走路を建設する「浅瀬案」に傾いている。

 「米国が受け入れられる案でないと、八方ふさがりになる。官邸がそれに気付くまで7カ月かかった」

 ある政務三役は迷走の軌跡を振り返る。だが、首相の鳩山由紀夫が「県外」を唱え続けて沖縄の期待感をあおった結果、たとえ米国が了解しても今度は県民感情が県内移設拒否に振れつつある。

 そして、この期に及んでも政府の意思統一はなされていない。鳩山の“女房役”である官房長官の平野博文は26日の記者会見で、あくまで鹿児島県・徳之島などの県外移設を米国側に求める考えを強調した。

 「首相が県外という意思で進めている以上、日米間での大きな検討事項であることは間違いない」

 平野は27日にも、徳之島の賛成派を上京させ交渉する考えだ。見通しのなさと出たとこ勝負の連続が、政権をここまで追い込んだ。

 「ここは、政府・与党の沖縄基地問題検討委員会の委員長である官房長官に責任をとらせた上で、『これから頑張っていこう』といって乗り切るしかない」

 ある政府高官は、平野更迭で政権延命を図るという秘策を明かす。平野も最近、周囲に「おれのしかばねを乗り越えていけばいい」と語っている。

 ■指導力評価5%

 だが、問題をここまでこじらせたのは、明らかに鳩山のリーダーシップと決断力の欠如だろう。今回の世論調査でも、首相の指導力を「評価する」は5.6%にとどまり、逆に「評価しない」が9割に達した。

 政権発足時の昨年9月の調査では、首相の指導力を54.5%もの人が評価していた。7カ月で約10分の1にしぼんだ計算だが、国民の5%強しか指導力を認めない国家の最高指導者とはどんな存在だろうか。

 東京第4検察審査会は26日、鳩山の偽装献金問題で、鳩山について「不起訴相当」と議決した。だが、これで一件落着とはいきそうにない。「政治とカネ」をめぐる鳩山政権の対応を評価する回答は10.4%のみで、82.5%が評価していないのだ。

 26日午後、首相官邸。昭和63年3月の初土俵以来、22年以上も現役を続けている大関、魁皇と相撲談議を交わす中で、政権維持に意欲を示してみせた。

 「(自分も)少しでも長く(首相を)続けられるようにしたい」

 22.2%と危険水域まで落ち込んだ内閣支持率も、自らに対する国民の厳しい評価もどこ吹く風と言わんばかりだ。一方、民主党選対委員長代理の海江田万里は率直に感想を述べた。

 「(7月の)参院選までに起死回生の手を打てればいいが、自信はない」

 ■首相が大ばか者では…

 「最後に会った人の言葉に影響される」「朝と夕とで言うことが違う」「もはやブレるブレないとかそういうレベルではない」…。

 鳩山の言動は、民主党幹事長時代からこう指摘されてきた。周辺は「首相が引きずられるとまずいので、夜のぶらさがりインタビューの直前には、官房長官記者会見のメモは見せないようにしている」という。

 今回の世論調査でも、首相の言動に関して「評価しない」が82.9%に上った。多くの国民が不安を覚えている表れだろう。

 その鳩山は7日に都内で開いた国家公務員合同初任研修で、約700人の新人官僚を前にこんな訓示を行っている。

 「政治家がばか者であり、トップの首相が大ばか者である国がもつわけがない。そんな国が、世界的に認められるはずもない」

 新人らは複雑な表情を浮かべていた。果たして失笑をこらえていたのか、絶望にとらわれていたのか。鳩山はその2週間後には「私は愚かな首相」と認めたが、愚かな人物に率いられる国は一体どうなるのか。

 「首相が国民の軽蔑(けいべつ)を買った。軽蔑が一番、怖いんだよ」

 民主党が圧勝し政権を奪取した昨年8月の衆院選直前、東京都の石原慎太郎知事が麻生太郎前首相を評した言葉だ。石原の指摘は、今や勝利者だったはずの鳩山に突きつけられている。(敬称略)


【新・民主党解剖】第4部(3)「民の声は天の声」2010.4.28 00:52

記者会見で口をへの字に結ぶ民主党の小沢幹事長。潔癖を主張し、辞任を否定した=27日夜、東京・永田町の党本部(寺河内美奈撮影) ■真っ向から対峙

 「意外な結果で驚いている。最終的には、検察当局の適正な判断がなされると信じている。何もやましいことはしていないので、与えられた職務を淡々と全力でこなしていく」

 民主党幹事長、小沢一郎は27日夜、党本部で緊急に記者会見し、幹事長続投を表明した。自らを「起訴相当」と議決した東京第5検察審査会の判断に、真っ向から対(たい)峙(じ)する姿勢を示したものだ。

 記者会見には、国対筆頭副委員長の松木謙公、小沢の元秘書である副幹事長の樋高剛ら側近たちが立ち会い、小沢に寄り添った。これに前後して、側近たちは手分けして関係各方面に小沢続投を報告する電話を入れていた。

 一方、検審の議決要旨には、小沢を厳しく批判する言葉が並んでいた。

 「(小沢の供述は)極めて不合理・不自然で信用できない」「市民目線からは許し難い」

 民間の有権者で構成する検審の議決は、事件に対する国民の率直な見方が反映される。それは、党所属議員もよく理解している。

 「民の声は天の声だ。重く、重く受け止めなければならない。政権与党の代表である(首相の)鳩山由紀夫君が決断することだな」

 民主党の長老である元衆院副議長、渡部恒三は議決を受けて記者団にこう述べ、小沢の更迭要求にまで踏み込んだ。

 小沢を批判し、副幹事長を解任されかけた生方幸夫も「国民の声を受けて、幹事長職をお辞めになるのが第一歩だ」と指摘した。「有権者の声」というお墨付きを得た小沢批判は、もうこれまでのように封印するのは難しい。

 ■揺れとあきらめ

 小沢は27日夕、党本部で大阪府知事、橋下徹と会談する予定をドタキャンした。理由は、当の橋下も「分からない」という。

 党内で圧倒的多数の「子分」を束ねる小沢の力は強大であり、小沢側近の一人は「小沢は徹底的に主張を貫き通すという腹ができている。小沢の進退問題にはならない」と言い切った。

 ただ、周囲には動揺も広がっている。小沢に近い党選対委員長の石井一は「国民の意思の表れだから厳粛に受け止める。選挙への影響を心配せざるをえない」と言葉少なに語った。

 別の側近は、西松建設による違法献金事件で大型連休明けに小沢が代表を辞任した昨年のことを思いだした、という。もっとも、小沢をよく知るベテラン議員は、あきらめ顔でこんな見方を口にした。

 「小沢は、参院選で負けた後に、(過半数確保のため)公明党や新党を引っ張り込めるのは自分だけだと思っているんじゃないか」

 小沢は強気を崩さないが、今後の展開は誰も予想できずにいる。

 ■鳩山の決断あるか

 「それは当然、党の立場の方からは何らかの判断がなされる可能性があると思います」

 首相の鳩山由紀夫は27日夜、東京第5検察審査会が民主党幹事長、小沢一郎について「起訴相当」と議決した問題をめぐり、こんな微妙な発言をした。

 小沢が進退に関し何らかの結論を出すことを“予告”したのではないか。永田町では首相発言にこんな解釈も駆けめぐったが、その後すぐに小沢は続投を表明し、騒ぎは収束した。ただ、再捜査が始まる小沢が居座ることは、ただでさえふらついている政権の足をさらに引っ張りかねない。

 「自分は不起訴相当になったんだから、(鳩山に)怖いものなんてない。ここでさすがは鳩山となるか、やっぱりダメとなるか…」

 ベテラン議員は、鳩山の「小沢切り」に期待をかける。内閣支持率が下げ止まらない鳩山政権を浮揚するには、「政治とカネ」の問題に一定のけじめをつける必要があるからだ。

 中堅議員は鳩山と小沢を突き放す。

 「鳩山が党代表として小沢を放置するのかという問題になる。検審の議決は(強制起訴となる)2回目も起訴相当となるのは間違いない。どうせ数カ月後に離党していなくなるヤツをどうするか、という話だ」

 閣僚の一人は「首相は時間をおいて小沢の進退を判断する可能性がある」と指摘する。とはいえ、決断には最適だった27日というタイミングを見逃した鳩山に、後になって小沢のクビに鈴をつける政治手腕が果たしてあるだろうか。

 ■座して死を待つ

 小沢は27日夜の記者会見後、副幹事長の佐藤公治ら側近議員数人、自身の秘書数人と東京・赤坂のなじみの居酒屋で杯を傾けた。昨年3月24日、西松建設による違法献金事件で秘書が起訴され、「涙の記者会見」で続投を宣言した際にも訪れた因縁の店だ。

 同じころ、近くの高級ホテルでは、小沢と距離を置く国土交通相、前原誠司の48歳誕生会が民主党国会議員約50人を集め、3日前倒しで盛大に開かれた。国家戦略担当相の仙谷由人や行政刷新担当相の枝野幸男も顔を出した。当選以来、小沢の影響下にあった1年生議員も出席した。

 「権力の座にある者は謙虚に節度を持って、心しなれければならない」

 主賓の前原はあいさつで、小沢を当てこするようにこう語った。出席者の一人は「検審の議決と同じ日になったのは、運命のいたずらだな」と語る。

 だが、その前原にしても、議決については「特にコメントはない」とし、小沢の辞任を迫ろうとはしない。この日のあいさつが指す意味についても、記者団に「小沢のことではない」と否定した。

 率先して「倒幕」に走る議員はおらず、ただ、政権がじり貧に向かうのを座して待っているようだ。

 いまや小沢の最側近とも言われる参院議員会長、輿石東ですら、夏の参院選には危機感を隠さない。

 「(民主党への)全国民の大きな期待が失望に変わりつつある」

 今回、改選を迎える輿石は24日、地元・甲府市での自身の選挙対策本部事務所開きでのあいさつで、こんな認識を示していた。それなのに、小沢に関しては「(潔癖を信じるのは)当然だ」としか言わない。

 中堅議員は27日夜、小沢の続投と鳩山の対応、そして現在の党のあり方についてこう吐き捨てた。

 「支持率は10%以下になるんじゃないか。気がおかしくなっている。国民を敵に回してしまっている」

 検審の議決は、鳩山民主党の「終わりの始まり」を告げる警鐘になるのかもしれない。(敬称略)

【新民主党解剖】第4部(4)「続投」民意と逆行 
2010.4.29 01:17


ワーキンググループAの家畜改良センター(農水)の会議を視察する鳩山由紀夫首相=28日午後、東京・日本橋(緑川真実撮影) 民主党幹事長、小沢一郎が東京第5検察審査会から「起訴相当」と議決され、一夜明けた28日午前。前夜は、記者団に小沢を解任するかと聞かれても答えなかった首相の鳩山由紀夫は、険しく思い詰めたような表情で続投支持を表明した。

 「幹事長には、このまま頑張っていただきたい」

 議決が出る以前でさえ、各種世論調査では小沢の幹事長辞任を求める意見が7〜8割に達していた。今回の鳩山の判断は、民意に沿うものだろうか。

 ■国民感情を軽視

 民主党は政権奪取前から開かれた透明な政治を訴え、「国民目線」の重要性を強調してきた。だが、今の党の姿は、それと逆行しているようにも映る。

 この日、国会内では検察審の強制起訴制度などを検証する党の「司法のあり方を検証・提言する議員連盟」設立総会が開かれた。

 「検察審で強制起訴の例がどんどん出ている。簡単に国民の感情で被告席につけてしまっていいのか」

 総会で、議連事務局長の辻恵はこう主張し、民間の有権者で構成し、強制起訴の権限を持つ検察審制度を批判した。出席した約20人の顔ぶれには、選対委員長の石井一、国対筆頭副委員長の松木謙公ら、小沢に近い議員が目立っていた。

 一方、この日は党副幹事長会議もあった。小沢を批判したことで3月に解任されかけた副幹事長の生方幸夫は、その場で提起した。

 「検察審の結論を重く受け止めなければならない。(小沢が)証人喚問できちんと説明するのが国民の納得を得る一番強い方法だ」

 だが、賛同者は一人もいなかった。それどころか、検察審の議決に対し「バランスを欠いた評価だ」との意見が出たという。会議終了後、生方の発言について記者団に問われた筆頭副幹事長の高嶋良充は、「へへ、無視、無視」と言い捨てた。(敬称略)

 ■聞こえぬふり

 民主党幹事長の小沢一郎が緊急記者会見で幹事長続投を宣言して約1時間後の27日午後8時20分ごろ。党所属議員や各都道府県連に、幹事長室から一斉にメールが届いた。

 「不正な献金は受け取っていないし、脱税その他の犯罪もなかったことが、検察の強制捜査で結果として明らかになっている」

 潔白を訴える小沢の記者会見内容を配信した内容だった。記者会見などの紹介メールは数日たってから送信されるのが通常で、異例の迅速さだ。それだけ、小沢サイドが党内の動揺と不満を抑えるのに躍起だったことがうかがえる。

 28日朝の参院議員総会では、小沢に近い参院議員会長の輿石東が「夏の参院選の勝利に向け、どんなことがあっても一致団結するよう協力してほしい」と結束を呼びかけた。

 また、参院国対委員長の平田健二は同日午前の記者会見で、「政治とカネ」の問題について国会での集中審議を求める野党側を一蹴(いっしゅう)してみせた。

 「これ以上やってもあまり意味のないことだ。(小沢が)特に国会で説明をする必要はない」

 国民の多くは小沢のこれまでの説明に納得せず、疑惑解明を求めている。だが、民主党執行部は検察審決議という「民意」にも耳をふさぎ、聞こえないふりをしている。

 ■国民の目は厳しい

 事業仕分けで脚光を浴びる民主党参院議員の蓮舫は28日、「民主党を見る国民の目は厳しい。参院選で勝つための環境は整っているのか。それを整えるための説明を求めたい」と述べたが、「小沢」という実名に触れなかった。また、反小沢の七奉行と呼ばれる議員の一人は同日夕、国会内で記者から検察審査会の結論について質問されると、言葉を濁してまるで逃げるように、やりとりを打ち切った。小沢問題には触れたくない、触れられない−。これが今の民主党の限界だ。

 小沢はこの日午後3時半ごろに国会に姿をみせた。国会内の幹事長室には、国家公安委員長の中井洽(ひろし)、参院議運委員長の西岡武夫、さらに、小沢側近の国対筆頭副委員長の松木謙公、党総務委員長代理、岡島一正らが相次いで訪れ、小沢は淡々と日常業務をこなしていった。

 同夜、都内のホテルの日本料理店で、小沢は同党最大の支援団体である日本労働組合総連合会(連合)会長の古賀伸明、事務局長の南雲弘行と会食した。

 夏の参院選などをめぐって意見交換が進む中、小沢は古賀らに次のように言った。

 「(政治情勢は)厳しいが乗り切らないといけない」

 検察審査会の「起訴相当」の議決をあえて振り切るかのように、小沢は再び参院選対策に専念し始めた。(敬称略)

【新・民主党解剖】第4部(5)出来レースだった「郵政見直し」
2010.4.29 22:56


 ■小沢が敷いたレール

 政府は30日、ゆうちょ銀行の預入限度額を現行の1千万円から2千万円に引き上げることなどを眼目とし、「民業圧迫」との批判が根強い郵政改革法案を閣議決定する。

 総務相の原口一博は、肥大化が予想される郵貯・簡保資金について、海外投資も視野に10兆円規模の運用を検討しているとされる。だが、リスクは高い。投資運用で失敗すれば、ツケは国民にまわってくる。

 原口が国民新党代表の郵政改革・金融相、亀井静香と、“見切り発車”の色が濃厚な改革案を発表したのは3月24日のことだ。

 「内閣全体の問題だ。もっとオープンな形で議論を尽くさないといけない」

 国家戦略担当相の仙谷由人が反撃を試みたが、首相の鳩山由紀夫は亀井側につき、仙谷は亀井にひざを屈した。

 民主党は元々、小泉純一郎政権の郵政民営化は手ぬるいとして郵貯の限度額を500万円に引き下げる案を打ち出していた。だが、すでに3年前の平成19年、当時代表だった小沢一郎(現幹事長)がこのスタンスを180度転換するレールを敷いていたのだ。

 19年夏の参院選を控え、小沢は衆院当選同期で、同じ自民党旧田中派出身の国民新党代表(当時)、綿貫民輔にひそかにこう持ちかけた。

 小沢「うちを応援してくれないか。頼むよ」

 綿貫「オレは郵政の見直しをやりたいんだ」

 小沢「もちろんだ。郵便局は大切だ」

 小沢が綿貫と手を結んだ狙いは全国40万といわれる「郵政票」。全国郵便局長会から支援を取り付けるには国民新党への接近が不可欠だった。

 ■演出された首相裁定

 鳩山が亀井に軍配を上げるまで、政府内の議論はこんな経過をたどった。

 3月26日の閣僚懇談会。経済産業相の直嶋正行が「改革後退とみられるのはよくない」と懸念を示したが、亀井は「小泉改革がガタガタにした郵政を元に戻すのだから逆行は当然だ」とねじ伏せた。

 民主党内でも仙谷への同調は広がらず、若手議員の間には「亀井案を通さないと郵便局長が選挙で動いてくれなくなる」と危惧する声が強まっていった。亀井は民主党が郵便局長会を敵に回せないことを見抜いていたのだ。

 鳩山は30日、決着を図るために閣僚懇を改めて招集した。官邸サイドは閣僚懇の直前に、日本郵政(JP)グループ労組の組織内議員でもある農水相、赤松広隆らに「首相は亀井案で行く」と連絡を入れた。

 「地方経済に良い影響を与えない」

 閣僚懇で仙谷が重ねてこう主張すると、赤松がすぐさま切り返した。

 「閣内のケンカで内閣支持率はガタ落ちだ。首相に一任すればいい」

 これを機に、鳩山は「限度額2千万円は今後下げることもあるんですね」と確認し、亀井は即座に「おう、そうだ」と応じた。

 実は1週間前、鳩山は亀井との電話で、同じやりとりを交わしていた。それを全閣僚の前で再現することで、2千万円を“暫定措置”とする落としどころを示してみせたのだった。

 「昨日はありがとうございました」

 翌31日の国会内では、鳩山が行き会った赤松にこう耳打ちする姿があった。

 ■旧民主党の無力感

 郵政論争は、過去に限度額500万円案をまとめた民主党内の「旧民主党」勢力と、選挙をすべてに優先させ、支持団体固めを最重視する小沢との路線対立も浮かび上がらせた。小沢には、無党派層を取り込むという発想も手法もない。

 この一件でポスト鳩山を視野に入れる仙谷は面目をつぶされただけに見えるが、実は一定の成果もあった。周辺はこう解説する。

 「閣僚や党所属議員を個別に敵と味方、その他に色分けすることができた」

 具体的には、副総理・財務相の菅直人と連絡を取り合いつつ、行政刷新担当相の枝野幸男や内閣府副大臣の古川元久ら旧民主党メンバーを自陣に引き入れた。

 一方、小沢はこの件では自ら動く必要さえなかった。亀井から電話で改革案の事前報告を受け「結構です」と応じた後、側近から「(官房長官の)平野博文はもっと各閣僚をグリップすべきです」と水を向けられても、心配する素振りも見せなかったという。

 今回の郵政論議は、選挙至上主義をひた走る小沢路線で本当によいのか、いったん立ち止まって考え直す好機だった。だが、今の民主党に、それを望むのは無理かもしれない。

 「表の顔は鳩山でも『小沢民主党』なんだからしようがない…」。活発な政策論議を売りにしてきた旧民主党の出身議員には無力感が募る。(敬称略) 

【新・民主党解剖】第4部(6)「ポスト鳩山」で神経戦過熱 
2010.4.30 22:33

虎視眈々
  

 ポスト鳩山に本命視される副総理・財務相の菅直人は30日の記者会見で、自身の立場を守る上で絶妙なバランス感覚を示した。

 民主党幹事長、小沢一郎と疎遠な国土交通相の前原誠司は、小沢の続投が夏の参院選に及ぼす影響に言及した。これに対し、菅は、続投を支持した首相、鳩山由紀夫の「判断に従う」と述べ、実力者の小沢を刺激しないよう努めた。

 また、鳩山が「職を賭す」と言明した米軍普天間飛行場移設問題について「心配しているが、私の役目は経済、財政だ。そこに全力を集中することが今の私の立場だ」と強調した。

 「菅さんは鳩山政権の命運がかかった問題で、自分に火の粉が降りかかるのを意識的に避けている」

 菅に近い議員はこう証言する。菅自身は口癖のように「首相には4年間続けてほしい」と話すが、鳩山を立てているように振る舞いながら突き放し、虎視眈々(たんたん)と次を狙っているのだ。

 4月22日、菅は米ワシントンのホワイトハウスを訪れた。国家経済会議委員長のサマーズと会談するためだったが、米国では、外国要人をここに招き入れることには特別の意味があるとされる。対照的に鳩山はいまだに足を踏み入れることができずにいる。

 鳩山と菅は同じ63歳。もう一人のポスト鳩山の有力候補、国家戦略担当相の仙谷由人は64歳と一つ上だが、ほぼ同世代だ。その仙谷は5月3日、外遊先のベトナムで前原と合流する。

  

囲い込み合戦
  

 「本気で小沢と戦う気があるのか。一新会だけで45人いる。何も怖くない」

 小沢を支持する党内グループ「一新会」の幹部は、4月27日の前原の誕生会が約50人の議員を集めたことに不快感を隠さなかった。

 誕生会には菅が率いる「国のかたち研究会」、財務副大臣、野田佳彦を支持する「花斉会」メンバーも顔を出した。前原グループ「凌雲会」は主要メンバーが勢ぞろいし、気勢を上げた。

 特に党内で注目されたのは、この会に10人以上の衆院1年生議員が参加していたことだ。

 一方、小沢グループは(1)2〜4期生からなる一新会(2)新人中心の一新会倶楽部(約50人)(3)参院小沢系(約30人)(4)旧自由党系(約10人)−の4つの連合体だ。一つにしないのは小沢の「他グループから警戒されるのを避けたい」(周辺)との思惑からだ。

 一新会と一新会倶楽部は3〜4月、3回にわたり都内で極秘の懇親会を開いた。一新会倶楽部に属していない新人も多数加わった。小沢はいずれの懇親会にも顔を出したという。

 3月29日夜に東京・赤坂の中華料理店で催された懇親会では、小沢は3つのテーブルを自らビールをついで回り、笑顔をつくった。

 「何かあったら、いつでも来てくれ」

 東京第5検察審査会の起訴相当とする議決は、小沢の求心力を徐々に削いでいく。普天間問題の「5月決着」は絶望的で、鳩山と小沢の行く手にはともに暗雲が漂う。各グループは来るべき政局に備え、総勢143人に上る1年生議員の囲い込みを過熱させている。

  

見えない明日

 4月の事業仕分け第2弾では、当選1回の衆参両院議員95人が「仕分け調査員」として手伝った。調査員を募集したのは、小沢と距離を置く「党七奉行」の一人、玄葉光一郎が会長を務める党地域主権・規制改革研究会だった。

 これに国対委員長の山岡賢次をはじめ、小沢系議員が牛耳る国会対策委員会は警戒を強めた。ある国対副委員長はこうつぶやいた。

 「ちょっと視察して追及するぐらいで何が仕分け人だ。常任委員会の出席が疎かになったら許さない」

 山岡が昨秋の臨時国会から続けてきた新人議員対象の「講話」を4月で終了した。だが、国対副委員長が班長を務める班別組織(計10班)は残ったまま。結局、常任委員会を休み視察に行った新人はいなかったが、国対幹部は「委員会中に新人議員が仕分け作業をしていたのをオレは知っている」と明かす。監視の目は張り巡らされている。

 党内では、鳩山による小沢解任に期待を寄せる声が少なくないが、一新会幹部は「小沢が辞めて鳩山が生き残るなんてことがあり得るのか」と牽制する。

 別の幹部は八つ当たり気味にこうも言い放った。

 「外形的に見たら鳩山の資金問題は脱税だ。何で小沢が起訴相当で、鳩山は不起訴相当なんだ」

 ポスト鳩山をにらみ、内向きの権力闘争が熱を帯び始めた民主党。国民不在のドタバタ劇が繰り広げられる中、夏の参院選は刻々と近づいている。(敬称略)

    =第4部おわり

      



 この連載は松本浩史、榊原智、阿比留瑠比、佐々木美恵、山田智章、坂井広志、比護義則、酒井充、宮下日出男、斉藤太郎、原川貴郎、山本雄史が担当しました。




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