【45回衆議院選挙の結果を受けての各紙社説 2009・8・31】

朝日新聞
民主圧勝 政権交代―民意の雪崩を受け止めよ


 小選挙区制のすさまじいまでの破壊力である。民意の劇的なうねりのなかで、日本の政治に政権交代という新しいページが開かれた。 

 それにしても衝撃的な結果だ。小選挙区で自民党の閣僚ら有力者が次々と敗北。麻生首相は総裁辞任の意向を示した。公明党は代表と幹事長が落選した。代わりに続々と勝ち名乗りを上げたのは、政治の舞台ではほとんど無名の民主党の若手や女性候補たちだ。 

 ■100日で足場固めを 

 うねりの原因ははっきりしている。少子高齢化が象徴する日本社会の構造変化、グローバル化の中での地域経済の疲弊。そうした激しい変化に対応できなかった自民党への不信だ。そして、世界同時不況の中で、社会全体に漂う閉塞(へいそく)感と将来への不安である。 

 民意は民主党へ雪崩をうった。その激しさは「このままではだめだ」「とにかく政治を変えてみよう」という人々の思いがいかに深いかを物語る。 

 では、それが民主党政権への信頼となっているかと言えば、答えはノーだろう。朝日新聞の世論調査で、民主党の政策への評価は驚くほど低い。期待半分、不安半分というのが正直なところではあるまいか。 

 長く野党にあった政党が、いきなり政権の座につく。民主党は政治の意思決定の方法や官僚との関係を大改革するという。だが、すべてを一気に変えるのは難しいし、成果をあせって猛進するのはつまずきのもとだ。 

 そこで民主党に提案したい。 

 最初の正念場は、来年度予算編成を終える12月末までだ。9月半ばの政権発足からほぼ100日間。これを政権の足場を固めるための時間と位置づけ、優先順位を明確にして全力で取り組むことだ。 

 やるべきことは三つある。 

 第一は、政治と行政を透明化することである。与党になれば、官僚が握る政府の情報が容易に入手できるようになる。それを洗いざらい総点検し、国民に情報を公開してもらいたい。 

 ■賢く豹変する勇気も 

 天下り、随意契約、官製談合、薬害、そして歴代の自民党政権がひた隠しにしてきた核兵器持ち込みに絡む日米密約……。かつて「消えた年金」を暴いたように、隠されてきたさまざまな闇を徹底的に検証してもらいたい。 

 第二に、政策を具体化するにあたって、間違った点や足りない点が見つかったら豹変(ひょうへん)の勇気をもつことだ。 

 マニフェストを誠実に実行するのは大事なことだ。だが民主党が重く受け止めるべきは、その財源について、本紙の世論調査で83%もの人が「不安を感じる」と答えていることだ。高速道路の無料化など、柔軟に見直すべき政策はある。むろん、政策を変えるならその理由を国民にきちんと説明することが絶対条件だ。 

 急ぐべきは一般会計と特別会計の内容を精査し、ムダな事業や優先度の低い政策を洗い出して、国民に示すことである。その作業なしに説得力のある予算編成は難しい。 

 鳩山新首相は、9月下旬には国連総会やG20の金融サミットに出席する。これまでの外交政策の何を継続し、何を変えるのか。基本的な方針を速やかに明らかにし、国民と国際社会を安心させる必要がある。 

 第三に、国家戦略局、行政刷新会議をはじめとする政権の新しい意思決定システムを、人事態勢を含め着実に機能させることだ。 

 自民党政権の特徴だった政府と党の二元体制に代えて、政策決定を首相官邸主導に一元化する。官僚が政策を積み上げ、政治が追認するというやり方を改め、政治が優先順位を決める。まず来年度の予算編成にそれがどう生かされるかを国民は注視している。 

 ■「二重権力」を排せ 

 民主党のあまりの圧勝ぶりには、新たな不安を覚える有権者も少なくなかろう。巨大与党に対してチェック機能をだれが果たせるのか。他方、選挙対策を一手に担った小沢一郎前代表の影響力が強まることで、民主党内にあつれきが生じないかも気がかりだ。 

 93年の政権交代で生まれた細川内閣が、与党を仕切る小沢氏との「二重権力」のなかで短命に終わった歴史を思い出す。それを繰り返してはならない。国民の危惧(きぐ)をぬぐうには、鳩山首相のリーダーシップをはっきりと確立すべきだ。 

 そのためにも、鳩山氏は来年度予算案に政権担当者としての明確な意思と4年間の行程表を練り込むことだ。 

 今回の総選挙を、政権交代の可能性が常に開かれた「2009年体制」への第一歩にできるかどうか。それは、2大政党のこれからにかかっている。 

 自民党の党勢立て直しは容易ではあるまい。それでも、民主党がしくじれば交代できる「政権準備党」の態勢を早く整えることだ。そのためには今回の敗因を正面から見据え、「新しい自民党」へ脱皮する作業が欠かせない。 

 「とにかく政権交代」の掛け声で巨大政党に膨れあがった民主党は、交代を果たした後の自画像をどう描くかが今日から問われる。広がった支持基盤とどういう距離感をもつのか、外交・安全保障での理念やスタンスは……。「民主党とは何か」をもっと明確に出していかねばならない。 

 新しくめくられた政治のページを埋めていく作業はこれからだ。 


毎日新聞
衆院選民主圧勝 国民が日本を変えた


 まさに、怒濤(どとう)だ。自民党の派閥重鎮やベテランが、無名だった新人候補にバタバタと倒されていった。国民は断固として変化を選んだ。歴史に刻まれるべき政権の交代である。

 衆院選は民主党が300議席を超す圧勝を収め、同党を中心とする政権の樹立が決まった。自民党は初めて衆院の第1党から転落するだけでなく議席が3分の1近くに激減する壊滅的大敗を喫し、自公政権は瓦解した。

 選挙を通じ政権を担う第1党が交代する民主主義の常道が、日本の政治では長く行われずにいた。政権選択が2大勢力で正面から問われての政権交代は、戦後初めてである。

 ◇歴史的な体制の転換
 民主党に不安を抱きながらも政治を刷新しなければ閉塞(へいそく)状況は打破できない、との国民の切迫感が、すさまじい地殻変動を生んだ。鳩山由紀夫代表を首相として発足する新政権の前途は多難だ。だが数をおごらず、政治を一新する維新の気概と覚悟で変化を国民に示さねばならない。

 「風」などという段階をはるかに超え、革命的とすら言える自公政権への決別だ。約7割という投票率が国民の関心と、政治のあり方を変える強い意志を物語る。その象徴が、金城湯池とされた自民常勝区の崩壊だ。変化を求める民意は、世代交代による人材の入れ替えに発展した。

 政権交代と言えば、93年衆院選で成立した細川内閣も確かに非自民政権だ。だが、第1党はあくまで自民党で、争点は政治改革だった。保守合同による自民党誕生で成立した「55年体制」は同党が唯一、政権担当能力を持つ意味では続いていた。

 政権選択を目指し小選挙区が導入されて5回目の衆院選で、その体制についに終止符が打たれた。投票による政権交代という民主主義本来の機能回復を、私たちは政治の進歩として率直に評価したい。

 それにしても、いかになだれ現象が小選挙区で起きやすいとはいえ、政治、社会の構造変化を抜きにこの激変は説明できまい。

 自民党支配の源泉は業界・団体への利益配分、官僚による行政運営という強固な統治構造にあった。経済成長が行き詰まり、財政赤字などのひずみが深刻化する中で登場したのが小泉改革路線だ。郵政民営化など「小さな政府」を掲げ05年衆院選に圧勝、党は再生したかに見えた。

 しかし、医療、年金、格差や地方の疲弊を通じ国民の生活不安が急速に強まり、党は路線見直しをめぐり迷走した。参院選惨敗に伴う「ねじれ国会」のなか、現職首相が2度も政権を投げ出し、政権担当能力の欠如を露呈した。小泉政治を総括できぬまま解散を引き延ばす麻生政権に、国民の不満は頂点に達した。

 しかも、小泉路線の下、業界、農村、地方議員など党を支えた集票マシンは急速に衰え、離反した。2世、3世が幅を利かせ人材も不足した。麻生太郎首相が難局にあたるリーダーの資質を備えていたとは言い難い。制度疲労をきたし、自民党はまさに「壊れて」いたのだ。

 一方、政権交代をスローガンとする民主党は「生活重視」「脱官僚」をマニフェストに掲げ、自民党が業界重視、官僚主導から脱せぬ中、争点の提示に成功した。衆院解散から約40日の論戦の結果、有権者が民主党を選択した意味は重い。

 だが、多数の議席を得た船出は、逆の意味で危うさをはらむ。期待がふくらむほど、裏切られた時の失望も大きい。数を頼みとする政権運営を戒めるべきことは当然だ。来年夏に参院選が控える。政治の変化の証明を待ったなしに迫られよう。

 ◇自民は解党的出直しを
 政治主導が可能な体制の速やかな構築が必要だ。縦割り省庁が行政を主導し続けた「官僚内閣制」を脱却しないと、官僚操縦に失敗した細川内閣の二の舞いを演じかねない。

 あいまいな外交・安保政策も他党との連立協議の過程で明らかにすべきだ。国民は財源対策の説明のほころびなど、リスク承知で1票を投じた。政権担当能力を十分に信用しての圧勝と過信してはならない。

 野党となる自民党の役割も重い。そもそも東西冷戦終結やバブル経済が崩壊した時点で存在意義が問い直される中、政権に安住し続けたことが転落を招いた。真剣な総括なくしては、党存続もおぼつかない。

 今選挙を民主、自民両党による2大政党政治の実現とみるのは早計だ。だが、選挙の審判で政権の枠組みを決するというルールは定着させねばならない。

 経済危機、財政、年金、医療の立て直しなど喫緊の課題は多い。新政権は、国民との約束である公約を実行してみせるしかない。

 そして、かじ取りを委ねた有権者にも責任がある。日本政治は、これまで以上に国民が当事者として参加、監視する新時代を迎えたのだ。

読売新聞
民主党政権実現 変化への期待と重責に応えよ


 自民党政治に対する不満と、民主党政権誕生による「変化」への期待が歴史的な政権交代をもたらした。

 30日投開票の衆院選で民主党が大勝し、自民党は結党以来の惨敗を喫した。

 野党が衆院選で単独過半数を獲得し、政権交代を果たしたのは戦後初めてのことである。

 近く召集される予定の特別国会で、首相に指名される民主党の鳩山代表が、国家経営の重責を担うことになる。

 ◆自民党への失望と飽き◆

 このような民意の大変動の要因は、自民党にある。

 小泉内閣の市場原理主義的な政策は、「格差社会」を助長し、医療・介護現場の荒廃や地方の疲弊を招いた。

 小泉後継の安倍、福田両首相は相次いで政権を投げ出した。

 麻生首相は、小泉路線の修正も中途半端なまま、首相としての資質を問われる言動を続けて、失点を重ねた。

 この間、自民党は、参院選敗北によって参院第1党の座を失い、従来の支持・業界団体も、自民離れを加速させた。

 構造改革路線の行き過ぎ、指導者の責任放棄と力量不足、支持団体の離反、長期政権への失望と飽きが、自民党の歴史的敗北につながったと言えよう。

 民主党は、こうした自民党の行き詰まりを批判し、子ども手当や高速道路無料化など家計支援策、多様な候補者を立てる選挙戦術で有権者の不満を吸い上げた。

 小泉政権下の前回衆院選では、「郵政民営化」と刺客騒動で、自民党に強い追い風が吹いた。

 今回、風向きは一転、「政権交代」を唱えた民主党側に変わり、圧勝への勢いを与えた。この結果、自民党だけでなく、連立与党の公明党も大きな打撃を受けた。

 民主党政権に「不安」は感じつつも、一度は政権交代を、との有権者の意識が、それだけ根強かったと見るべきだろう。

 しかし、300議席を超す勝利は、必ずしも、民主党への白紙委任を意味するものではない。

 ◆政権公約の見直しを◆

 鳩山新内閣は、政権公約(マニフェスト)で示した工程表に従って、政策を進めることになる。だが、“選挙用”政権公約にこだわるあまり、国民生活を不安定にさせてはならない。

 最大の課題は、大不況から立ち直りかけている日本経済を着実な回復軌道に乗せることだ。雇用情勢の悪化を考えれば、切れ目のない景気対策が欠かせない。

 来年度予算編成でも、景気浮揚に最大限の配慮が必要だ。

 外交・安全保障では、政権交代によって、国際公約を反故(ほご)にすることは許されない。外交の継続性に留意し、日米同盟を堅持しなければならない。

 民主党は、参院では単独過半数を持たないことから、社民、国民新両党と連立政権協議に入る。

 懸念されるのは、自衛隊の国際平和協力活動など、外交・安保の基本にかかわる政策をめぐって、民主、社民両党間に大きな隔たりがあることだ。

 少数党が多数党を振り回すキャスチングボート政治は、弊害が大きい。民主党は、基本政策で合意できなければ、連立を白紙に戻すこともあり得るとの強い決意で、協議に臨むべきだろう。

 民主党は、「官僚政治からの脱却」も目標に掲げている。だが、首相直属の「国家戦略局」を設けたり、多数の国会議員を各府省に配置しさえすれば、官僚を動かせるというものではない。

 官僚と敵対するのではなく、使いこなす力量が問われる。官僚の信頼を得て初めて、政策の遂行が可能になることを知るべきだ。

 自民党は1955年、左右の社会党の統一に対抗する保守合同によって誕生した。

 当時のイデオロギー対決はすでになく、かつての社会党も存在しない。今回の自民党の壊滅的な敗北は、自社主軸の「55年体制」の完全な終幕を告げるものだ。

 ◆自民党は立ち直れるか◆

 自民党は、これから野党時代が長くなることを覚悟しなければなるまい。民主党とともに2大政党制の一角を占め続けるには、解党的出直しが必要だ。

 93年、自民党は金権腐敗から一時期政権を退いた。その後、社会党や公明党などとの連立で政権を維持してきた。

 しかし、自己改革を怠り、結局、有権者の手によって、再出発を余儀なくされた。

 今後は、麻生首相に代わる新総裁の下、来年夏の参院選に向け、党の組織や政策、選挙体制など、すべての面にわたり徹底的な改革が迫られる。

 説得力のある政策を示し、民主党政権に対する批判勢力として、闘争力を高めねばならない。

産経新聞
民主党政権 現実路線で国益を守れ 保守再生が自民生き残り策


 第45回総選挙が投開票され、民主党は選挙区、比例代表ともに自民党を圧倒した。

 野党が単独で過半数を占め、政権を樹立するのは戦後初めてだ。自民党主導政治を終焉(しゅうえん)させるという歴史的な転換点になった。13年前の総選挙から導入された小選挙区制による政権交代を可能にする二大政党制が、ようやく機能した意味は大きい。民主党が自民党批判の受け皿になったのである。

 問題は、政権交代が目的化し、この国をどうするのかという選択肢がほとんど吟味されぬまま、結論が導かれたことだ。

 民主党主導の新たな政権により、これまでの内政・外交の基軸は大きく変わらざるを得ないだろう。自民党が曲がりなりにも担ってきた戦後秩序も変化を余儀なくされる。場合によっては、日本を混乱と混迷の世界に投げ込むことにもなりかねない。政権交代が日本を危うくすることもあるのだ。そうなることは民主党にとっても本意ではないだろう。

 国の統治を担う以上、民主党には国益や国民の利益を守る現実路線に踏み込んでほしい。マニフェスト(政権公約)で掲げた政策の修正を伴うケースも出てこようが、1億2千万の日本人の繁栄と安全を守り抜くことをなによりも優先させるべきだ。

 ≪危ういポピュリズム≫

 今回の選択で留意すべきは、民主党の政策が高く評価されたというより、自民党にお灸(きゅう)を据えることに重点が置かれたことだ。たとえば、民主党が掲げた「高速道路の原則無料化」に対し、産経新聞社とFNN(フジニュースネットワーク)の合同世論調査では、反対が65%と賛成(30%)の倍以上となった。

 政権を担う民主党の力量に不安があることも事実だ。本来、政権交代のたびに基本政策が大きく変わることは好ましくない。とくに外交・安全保障政策の基軸が揺れ動いては対外的信用を失う。

 民主党はこれまで、インド洋での海上自衛隊による補給支援を一時的に撤退させ、在日米軍駐留経費の日本側負担に関する特別協定に反対してきた。小沢一郎前代表の政局至上主義のためだが、「党利党略は水際まで」の原則を否定したのでは信頼は高まらない。

 その意味で、維持されるべき日本政治の方向性とは、日米同盟を基軸とした外交・安保政策の継続であり、構造改革の推進により経済や社会に活力を取り戻すことにほかならない。民主党が現実的な判断に立ち、これらを継承することができないなら、何のための政権交代かということになる。

 また、国民の政治に対する判断はどうだったのだろう。4年前の総選挙では、小泉純一郎首相が掲げた郵政民営化を圧倒的に支持した。それが今回は、民主党の主張する「政権交代」というキャッチフレーズに熱狂的に共鳴したといえる。

 2年前の参院選でも民主党は勝利したが、振り子の激しさは政治を不安定にしかねない。とりわけ、単一イシュー(争点)に白黒をつけることが最大の選択肢となることは、単純明快かもしれないが、ポピュリズム傾倒の危うさがあると認識すべきだろう。

 一方で、多くの国民が民主党に閉塞(へいそく)感を払拭(ふっしょく)することを期待したのも間違いない。民主党が公約に掲げた首相直属の国家戦略局は、予算作りだけでなく、国家ビジョンを検討するという。

 ≪敗北を徹底検証せよ≫

 これまで、こうした外交・安保政策の司令塔はなかった。官僚主導から政治主導への成果を出すことができなければ、国民の失望感は大きくなるだろう。

 自民党は歴史的な惨敗になった。党幹部や閣僚らは相次いで選挙区で落選・敗退した。解党的出直しへの答えを見いだせないまま選挙に臨み、政権から退場を求められたといえる。自民党政治への不信や行き詰まり感が広がったことに加え、保守政党としての存在意義を十分発揮できなかった点も見過ごせない。

 新憲法草案の策定など、民主党に比べれば保守色をみせていたが、集団的自衛権行使の政治決断には至らず、国の守りに関しても不十分さが残った。

 公明党との連立下でもイラク自衛隊派遣などの業績は挙げたが、連立の常態化が何をもたらしたかを考えるべきだった。敗北を徹底的に検証してもらいたい。保守政党として民主党への対抗軸を早急に構築し、再生を果たして国民の期待に応える責務がある。


東京新聞
歴史の歯車が回った 民主が圧勝 自民落城


 政権が代わる。民意は自公政治の継続を許さず野党の政権を選択した。憲政史上初の出来事だ。歴史の歯車が回り、新たな時代の門口に、私たちは立つ。

 つかんでもつかんでも指の間からこぼれる砂。選挙の帰趨(きすう)を左右する、特定の支持政党のない有権者の気まぐれを、かつて中曽根康弘氏が砂に例えたことがある。

 とらえどころのない、そんな砂が、明確な意志を持った。「政権を代える」という意志である。

 四年前の「郵政民営化か否か」とは次元がかなり異なる。一票に込められた変革への欲求が、ひと塊となって野党に政権の座を用意したのは、憲政史上例がない。

◆「鳩山」「一郎」政権
 長らく「自民王国」と称された保守地盤が軒並み崩れた。自民党の首相経験者や現職閣僚、要職を歴任した大物たちが退場を余儀なくされ、あるいは脅かされた。

 メディアの度重なる民主党圧勝予測にも有権者は動じず、古くからの支持者ですら粛々と自民政治に別れを告げた観がある。

 政権交代をためらう世間の空気は薄れて、衆院小選挙区制の威力がいよいよ発揮されたのだ。

 民主の顔となった鳩山由紀夫代表は「保守とか革新とかの時代ではない」と保守層に呼び掛け、抵抗感を薄らげるのに成功した。

 黒子役に徹した小沢一郎氏は代表当時と変わらぬ指揮のさえを見せた。自民政治を地域で支えた農村組織や建設、医療団体にくさびを打ち込んだ。敵陣からの候補の擁立も、えげつなく。

 新人候補に“どぶ板”選挙を徹底させた。公明党幹部の選挙区を激戦に持ち込んで、自民の頼む創価学会の動きを封じてもいる。

 表の顔と裏の顔が小選挙区効果を倍加させた印象もある。自公に取って代わって衆院を席巻した民主の政権は「鳩山」「一郎」政権と名付けるのがふさわしい。

◆一変する政の風景
 ちなみに鳩山氏の祖父・一郎氏は自民の結党を挟んで一九五四年から二年余、政権を担当した。党の五十年史はこう記している。

 「大胆な行政改革構想を提起して官僚政治を排し、政治主導、内閣主導の政策決定の方向に進む意気込みを示した。こうした課題はいつの日にか必ず実現されるべき民主政治の大目標である」

 選挙戦で民主党が繰り返し唱えたのが、この「明治以来の官僚主導政治からの脱却」だった。

 過去半世紀、歴代自民党政権が口にはしながら怠ってきた「実現されるべき大目標」が、鳩山、小沢両氏を柱とする民主政権に委ねられることになる。

 鳩山代表ら党首脳は直ちに政権移行チームを編成し、九月半ばと想定する民主党内閣の発足へ脱・官僚の体制づくりを急ぐ。

 霞が関の役人が族議員や天下り予定先の業界と一体でリードしてきた縦割り式の予算配分。その惰性を絶ち、政策の優先順位を政治が決める。国が主、地方は従の中央集権を地域主権へと転換する。いずれも時代の確かな要請だ。

 外交・安全保障のありようも旧来の官僚任せを改められるとすれば、政治の風景は一変する。小勢力の社民党、国民新党などは民主との連立を織り込み、共産党も是々非々の協力を表明している。

 全国各地の投票所に列をなして民主に大勝利を与えた民意が、政権担当の力量をこの党に認めたのかは怪しい。むしろ「よりましな政権」へ雪崩を打ったと見る方がいいかもしれない。

 それでも、自民党が官僚機構とつくりあげた、盤石にも見えた厚い壁はもろくも突き破られた。「日本を壊すな」と劣勢に焦りの声を上げた麻生太郎首相らを顧みることなく、有権者は欲する政権をじかに選んだ。歴史に刻まれる二〇〇九年衆院選であったのだ。

 自民は完膚なきまでに打ちのめされた。父から子、親族へと、当たり前のようだった世襲、そして平成の大合併や組織票依存で足腰が弱った党は、時代が必要としなくなったようにも見える。

 連立を組んで十年、ともに自民政権の危機を首相のすげ替えで乗り越えてきた公明も代表と幹事長の議席まで失った。協力関係の継続は難しかろう。両党にはたして復元力はあるか。

 老後の年金や医療、雇用に募る不安、教育にも及ぶ格差社会の不公平に有権者は怒り、政・官のなれ合い、しがらみの政治との断絶を促した。自公に代わる民主の政権はそれに応える責務がある。

◆政党政治を壊すな
 経験のない数を得た民主は無駄なく巨体を動かす秩序づくりが急務だ。死屍(しし)累々の自民は後継総裁選びと党再建に追われよう。

 大量議席に政権側がおごり、落城した側が混迷を続けるなら、政党政治は壊れ、二大政党体制も幻となる。監視が必要だ。有権者の仕事は投票だけで終わらない。


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