加藤紘一氏に聞く [保守リベラルの外交構想力]

6月13日16時44分配信 産経新聞



 北朝鮮が核実験を行い日本にとって身近な危機となりつつある昨今、北朝鮮に影響力のある中国との関係は日本にとって大きな課題。日中関係はこれからどうあるべきだろう。今回は日中友好協会会長として中国当局にも深い人脈をもち、外交、防衛についても見識の深い加藤紘一氏に日中関係の今後を中心に聞いた。「保守リベラル派」を自任する加藤氏の語る外交構想力とは。(政治部 福島香織)

 □日米中の正三角形

 ■距離感が大事

 ――加藤先生は外務官僚出身、防衛庁長官も経験され、外交防衛にも持論をお持ちでらっしゃるので、日中関係からお聞きしたいと思います。私自身は、最近かいまみえる中国の軍事的野心などから、なんとなく不安をかき立てられているのですが、日中関係をどうごらんになりますか。以前は日米中の関係が、日米と中国の二等辺三角形から、相互に同等の距離感の正三角形であるのがよい、とおっしゃっていましたが。

 「12、3年前に、私が日米中正三角形といったとき、民族派からかなり強い非難をうけました。産経新聞からも受けました。そのときに、主な論点は日米安保関係は一種の同盟関係であると。一方、中国はわれわれの敵対する、ある意味では仮想敵国に近いものだ、と。それを正三角形、米中対等に扱うというのは、論外で、防衛庁長官をしたことがある人間の言うこととも、思えない、というものでした。それに対して、防衛関係はそうでしょう、しかし中国とは地理的な近さ、3000年の歴史的経緯、ともに漢字をつかっている文明の流れなどからみれば、重層的に考えると、日中、日米というのは同等の重さになりますよ、といったんだけど。

 でも最近は、日米中という言葉がほとんど抵抗なくいわれていますね。それは、時代の流れだなと思っていますけれども。そういう中で、誰もが思うように、中国の存在の重さは経済的にも軍事的にも大きくなってきましたね。それで、もう日米貿易関係より、広い意味で日中貿易関係の方が大きくなってきましたね。よく日米経済関係は密接不可分といっていたけれど、今日中経済はそれ以上に密接不可分ですよね。日本の工作機械などがなければ中国も経済発展ができないようになっている。いやがおうでも、不可分の関係になっている。さあ、そこでどこまで、日本が自己を失わないでいることができるか、ということを思って、今反中感情が強くなっているんだと思いますよ。

 これは本来、日米関係も、インディペンデント(独立性)の距離感の取り方が重要だったんだけど。それは取りえないできました。今度、日中関係は距離関係をはかれるようにしなければならない。その意味で、親中論者は、日中友好、友好第一といって、自己を見失っているという批判があるとすれば、そこは過度の親中論者は気をつけないといけないと思っています。ただ、ひとつ言えることは、中国も日本抜きではいきていけないようになったんです、ここ2、3年は中国の方が、日本に気をつかっているように思います。

 それは、あなたもおわかりでしょうけど。対日デモ(2005年春)が各地で吹き荒れたとき、あのとき必死になって抑えにかかったのは中国政府であり中国共産党だった。一方、日本の方はデモをあおっているのが共産党だ、と事実とまったく違っていることをいっていたんですけど。あれのとき、日本無しでは、中国経済が成り立っていかないんだよ、若い人たちの就職先でもあるんだよ、良好な日中関係は、と指導者たちが説得していたんですのが、ほとんど報道されていない。というところに、今の日中関係の問題があると思います」

 ■中国のアメリカへの不信

 ――日中の距離感を保つことは大事だけれど、互いに相手なしでは生きられないというのは事実であると。ただ、中国は空母を造ろうとしたり、軍事面で不信感があります。同時に今回、北朝鮮の問題もあって、今回の北朝鮮の核実験に対する国連安保理決議でも、制裁の義務化を盛り込むことに抵抗していました。信頼醸成はむつかしい。

 「今、北朝鮮が核を持つといったときに、日本に恐怖心がはしっていますね。ところが中国は今、核を持っているんだけれど、いずれアタックされる、核ミサイルを撃ち込まれるという心配はしていませんね。それはなぜかというと付き合いが深くなっていて、そんなことしたら、向こうもおしまいだと思っていることが分かっているから。ただ、空母の話とか、最近の軍事費の2ケタののびとか、この点については中国ももっと説明責任を果たさなければいけない。2ケタののびについては、どうも経済成長も2ケタであって、こんど軍人さんの生活を人並みにみなければいけなくなってきたということも影響してきたと思われますが、いずれにしろ細部を話してもらいたいとおもって、何度も何度も、僕らも李長春(政治局常務委員)なんかに会ったときも言っとるんですけどね。

 李長春はこう言ってました。軍事費の当面の問題は台湾問題(が背景)だと。そして居並ぶ軍関係者をあわてさせてましたけれどね。台湾海峡をめぐる米中間の不信感は、(両国が)非常に密接な付き合いをしていても、いまひとつ溶けていないと思います」

 ――馬英九政権(国民党)になっても、中国は安心していないと。

 「馬英九になってからはだいぶ変わってきていると思うけれど、しかし米国の軍の存在に、まだ安心していないと思いますよ」

 ――中国の軍事増強は、アメリカを意識したものだと。その一方で、オバマ政権があきらかに中国にすりよっているように見えるのですが。駐華大使の人選にしても、今回の国連安保理決議の内容にしても。そういう心配が日本の経済界にも政治家の方の間にもあると思います。アメリカは日本より中国を重視している。以前ほど頼りにならなくなったと。そういう中で、中国ともっと接近すべきだという人もいるけれど、中国とは、同盟国のような信頼関係を結ぶことができるのでしょうか。

 「本当に望ましいのは、日米中の対等の三角関係をつくって、もしアメリカがやることについて、どうも納得できないことがあったら、日中がよくよく話し合ってそれに対抗すると。中国が軍事大国になりそうだというときには、日米が真剣に対応してそれをチェックするというポジションに日本がいなきゃダメなんですよ。それは軍事だけでなく、すべてにおいて。

 たとえばアメリカの金融政策が、プライムローンからサブプライムローン(信用度の低い個人向け住宅ローン)になって、(それに基づく)デリバティブ(金融派生商品)になって、どうにもならないほどレバレッジ(少額資金を元手に得た多額の借入金で行う高額投資)をかけて、乱暴な金融資本主義になっていったときには、日中がしっかりとブレーキをかけるということが、これまでにあったら、これは私は、日中の経済、政治関係までも強くなって、信頼関係も強くなって、アメリカに対しても発言力が強くなっていったと思いますよ。とくに日中の外貨リザーブがなければ、これからの金融問題を解決することは、アメリカはできないわけですからね。現実にはわれわれがサポートしているわけですから。でも、日中の間で話し合ってサポートしているわけではないんですよ。ですから、やっぱりいかなる国とも、8割までは密接にやるけど、2割は距離感を持っていなければいけなかったけれど、日米にはそれが少なかった。

 で、急にアメリカが中国にぼーんと、近づくと今のようにあわてている、ということになるんだと思いますけどね」

 ■持てる軍事力を持たない強さを

 ――中国のアメリカ不信をうまく利用できれば。

 「そういうときに、外交的に大人の付き合いをするときに、何が必要か。ひとつはよく言われているように、ちゃんと軍事的国際貢献を日頃からしていて、大人のメンバーの一員として動いていなければいけなかったんだ、あるときには、核さえ持たなければいけなかったんだ、という軍事的大人論、軍事的普通の国論というのがありますね。

 これは私は、日本は核保有国になるべきではないと思うし、日本は軍事的海外展開をしないということで、独特の強さを持ち得たと思うし、通常兵器の輸出でもうけようとしなかったという実績を、堂々とポジティブにいえる力を持たなかったのがいけなかったのだ、と思う。

 なのに、外務省中心に軍事展開できなかったことがマイナスの展開だと、日本はハンディキャップの国ですと、外務次官が言うに至っては利点を弱点にしちゃっていた。そういうこれまでの20、30年の外交を反省すべきだと思います」

 ――しかし、現実に北朝鮮をみると、着々と核保有国をもつ準備をしていて、それを今、米中は抑えられないでいます。軍事力を持つという論も説得力がある。

 「そういう議論をしていたら、日本は核を持つべきだという結論になる。論理的に。しかし、それがもたらす可能性を考えるときに、一番反対するのはアメリカでしょう。軍事的展開をするといったとき、一番反対するのは中国でしょう。ですから、そこはわれわれはやれるんだけれど、やらなかったんだよ、というところを積極的に言い続けていく、ということがないといけない」

 ――日本は小国であり周辺を刺激することはできない。だから、あえて刺激しないでいることを恩に着せる、ということですか。

 「そうです。ところが、何代かの外務次官の発言をみると、日本はハンディキャップの国だ、という。そういうと、それは軍事力を持たないことが悪かった、ということになるんですよ。その分だけ、日本は海外援助をしてきましたのに。たぶん、日本がアフリカ諸国に兵器なんか売っていたら大変なことになっていましたよ」

■拉致と非核は同等の重さ

 ――中国はアフリカ諸国に武器を売っているわけですが。

 「やっていることを、われわれは非難できるんですよ。日本は最高の自動車を造ることができる、ということは最高の兵器を造ることができるわけですから。だから、(そこを外交の武器にできなかった)外交構想力が弱かったということだと思います。

 われわれはイスラム諸国からも信用があったし、イランからも信用があったんだけれど、911以降のアメリカの戦いに参戦しちゃって、それらを失った。そして今になって、アメリカはあれはまちがえた戦いであったと」


 ――あのとき、日本が米国と中東の仲介役を買って出ていたら…。

 「ぜんぜん違ったと思いますよ。あまつさえ、あのとき今、アメリカをサポートしたのは正しかったと、まだ言い続けていますよ。だから外交構想力を持つということ。たとえば北朝鮮を日本の味方につけておけば、対米でも、対中でも、日本はどんなに強かったか。たとえばそれをやるチャンスが日本にはあったんですね。それは、金正日が小泉さん(純一郎元首相)に来てほしい、と招請しましたね。たぶん、そのとき拉致については事実を話し、それなりに謝るということだったんだと思います。

 そこで、拉致をめぐって日朝間で不幸なやりとりになっていますけれど、6者会談(6カ国協議)がうまくいっていない部分のかなりのところは、あの拉致問題なんですよ。拉致については、中国やアメリカが本当に日本の立場を理解しているとは思えないんですよ。アメリカは今まで一度も、拉致が解決しないかぎり、対北朝鮮の制裁をはずしません、とは一度もいっていない。

 日本は拉致の問題と、非核の問題を同等の重さでやらないといけないと思いますよ」

 ■瀬戸際のきわどい遊びをする北朝鮮

 ――外交というものは、そういう非情なものであるのかもしれませんが、日本人の心情としてはなかなか受け入れられない考えです。6カ国協議の北朝鮮の言動をみても、まず信用できない印象ですし、国家として普通の外交交渉ができる相手ではないという気がします。ただ、中国なら、北朝鮮と交渉ができる。どうして中国が北朝鮮に対して動かないのでしょうか。中国と北朝鮮の関係は今どういう状況になっているか聞いていますか。

 「中国の人と何度も話をしています。そして、(北朝鮮に対し)怒っていますね。最初の核実験はたった20分前に、われわれに通報したんですよ、と怒り心頭でしたね。中朝関係はけっしていいものではない。北朝鮮の方も、中国をかなり警戒している。だから、中国が言えば、北朝鮮が言うことを聞く、丹東ルートでいく油や食料を止めれば、すぐ言うことを聞くと、思われている人がいるけれど、実はそこまで実行力はないんだと思いますよ」

 ――前の核実験のときは、北朝鮮の原油パイプラインのバブルを一時閉めたんですね。今回はそういう話は。

 「きいていないですね。ただ中朝間で混乱がおきたとき、中朝国境は簡単に渡れるところですからね。吉林省の延辺朝鮮族自治州あたりの国境では難民の流入をコントロールできないでしょうね」

 ――中国は北朝鮮に強硬にでたときの国境の混乱、暴発を恐れている、と。

 「それより何より、中国は北朝鮮の能力をかなり、あんなもんだ、と思っているのだと思いますよ。そんなに恐れるものではないし、いざとなれば、自分たちでなんとでもなると思っているんですよ。北朝鮮の人口は中国の何分の1(60分の1)?国内生産は2兆円から3兆円ですよ。瀬戸際のきわどい遊びをしている北朝鮮だと見くびっていると思いますよ」

 ■日本は北朝鮮の手に乗っている

 ――むしろ、中国にはそれをカードにアメリカやロシアと渡りあえる余裕があるということですか。

 「中国の軍関係者がよく言うのですが、あの国をあまり大きなものと思わないで、適当に対応することが、北朝鮮に対する最大の抑止力です、と。どうして日本はそこまで柳眉を逆立てて、国をあげて議論しているのですか、と。人民解放軍総参謀本部国際研究所の北朝鮮調査主任研究員のような人が言ったんですけれど。要するに日本は騒ぎすぎですよ、もっと堂々としていた方がいいと思いますよ、と。僕もそう思います。だって、日本のH2ロケット技術はテポドン技術の何十倍かの能力ですから」

 ――中国人民解放軍の対北朝鮮観は政府とは多少温度差があるかもしれません。そろそろ時間ですね。米中は本当に北朝鮮の核保有を阻止する気があるんでしょうか。

 「それは認めない。基本的には、アメリカも中国も、日本の防衛庁関係者も北朝鮮の軍事能力を、非常に、大したことはないと思っている。北朝鮮もそれらの国々から、自分たちは見くびられていると、わかっているわけです。だから、かなりきわどいことを時々やるんだけれど。北朝鮮がうまく、強く反応してほしいなあ、と思ってやっているんだけれど、中国や米国はあまり反応しないでしょう。日本だけが強く反応するので、日本に向けてミサイルを撃とうする。北朝鮮の手に乗っています」

 ――今年春以降の北朝鮮に対する日本側の反応は、実際の危機を感じているというより、選挙を意識した自民党のパフォーマンス的部分もあったかもしれません。本当は、このあたりの話から、近著「劇場政治の誤算」の中でも書かれていた自民党の歴史的役割の終焉にからんで、これから自民党や政党政治のあり方についてうかがいたかったのですが、タイムリミットとなりました。残念。

 「それは次の機会に回しましょう」

 ――ではインタビュー第2弾があると期待していいのですね。ありがとうございます。

 ■加藤紘一(かとう・こういち) 自民党衆院議員。当選12回。昭和14年山形県鶴岡市生まれ。東大法学部卒後外務省入省後、香港副領事など経て昭和47年に初当選。防衛長官、官房長官、自民党幹事長などの要職を歴任。自民党内では自他共にみとめるリベラル派で、平成18年には自宅が右翼テロに放火されたことも。平成20年に日中友好協会会長に就任した。


http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090613-00000561-san-pol


この記事に対するブログ
《加藤紘一氏に聞く[適当に対応することが北への最大の抑止力]》
 http://blogs.yahoo.co.jp/master3511/32868100.html


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