09・5・10「小沢代表辞任」を受けての各紙社説

朝日新聞社説
小沢代表辞任―政権選択に向け再起動を


 民主党の小沢代表がようやく辞意を表明した。妥当な判断だ。もっと早く踏み切っていれば、民主党が被った損失は小さくて済んだろう。 

 西松建設の違法献金事件で公設第1秘書が逮捕されてから2カ月余。代表の職にとどまった小沢氏に対する世論の逆風は強まる一方だった。それが、超低空飛行だった麻生内閣の支持率を上向かせることにもなった。 

■容易でない党勢回復 

 このままでは、秋までに必ずある総選挙での勝利、つまり年来の目標である政権交代の実現が遠のく。そんな危機感からの決断なのだろう。 

 昨夕、記者会見した小沢氏は「政権交代の実現に向け、あえてこの身をなげうち、職を辞する」「身を捨て、必ず勝利する」などと述べた。 

 もう一つ、これまで小沢氏批判が大きな声にはならなかった党内に、辞任を促す動きが表面化してきたことも、決断を後押ししたに違いない。 

 秘書の逮捕以来、小沢氏は全面的に検察と争う姿勢をあらわにしてきた。昨夕の記者会見でも「一点もやましいことはない」と強調した。辞任すれば検察への屈服ととられかねない。そうした思いが、小沢氏の身を固くさせていた面もあろう。 

 検察はまだ捜査終結を宣言してはいないが、焦点は近く開かれる事件の初公判に向き始めている。小沢氏とすれば、公設秘書の逮捕という強制捜査の手法や、献金の違法性などについて、今後は裁判の場で争っていくということなのだろう。 

 民主党はただちに新代表選びの作業にとりかかるが、党勢の回復は容易なことではない。 

 この事件が表面化する前、民主党の勢いには政権交代前夜のおもむきさえあった。それが一気に失速しただけではない。この2カ月というもの、国会に提出された多くの法案や予算案について、すっきりとした対応が定まらず、総選挙向けのマニフェストづくりの作業はほぼストップしていた。 

■開かれた代表選びを 

 小沢氏がなぜゼネコンから長年にわたって巨額の献金を受けていたのか。公共事業をめぐる政官業の癒着を厳しく指弾し、「国のかたち」を抜本的に変えると主張してきた民主党なのに、その基本姿勢と矛盾するのではないのか。そうした世間の批判に、小沢氏本人だけでなく、民主党もほおかむりしてきた。 

 この不信感の集積を、ぬぐわねばならないのだ。新代表になればまた自動的に支持が取り戻せると思っているのなら、大きな間違いだ。 

 代表選挙は、複数の候補者が政見を競い合う形にすべきだろう。国会審議への影響は最小限にしなければならないが、民主党が目指す政策や理念についての論争を党外に積極的にさらし、有権者にもその是非を考えてもらえる工夫をする必要がある。 

 そして、何かといえば「小沢氏頼み」になりがちだった党の体質を、新代表のもとで刷新することだ。 

 偽メール騒動で混迷した党の苦境を引き受け、小沢氏が代表に選ばれたのは3年前。その真骨頂は07年の参院選での与野党逆転だった。 

 自民党の手の内を知り尽くし、選挙戦術にたけた老練さ。抜群の知名度。民主党内にも有権者の側にも、かつて自民党の中枢にいた小沢氏の過去や体質への懸念がなかったわけではない。それでも、どこかひ弱な民主党にとって、その腕力は政権につくのに欠かせない「劇薬」と受け止められた。 

 副作用もあった。小沢代表になってから、社会保障財源のための消費税引き上げ、公共事業受注企業からの献金禁止といった民主党独自の政策が、いつの間にか政権公約から姿を消した。高速道路の無料化や子ども手当などの政策には「財源の裏付けがない」という与党などの批判が浴びせられた。 

 外交面でも、例えば「第7艦隊で米国の極東におけるプレゼンスは十分」などといった、小沢氏の迷走発言が続いた。 

■自民も問われる責任 

 小沢氏がトップダウンで進めようとした自民党との大連立構想こそ頓挫したものの、小沢時代の民主党は「政策より政局」「何はともあれ政権に」の権力志向があまりにも前面に出ていなかったか。 

 内政、外交の両面で、政策を練り直す作業を急がねばなるまい。 

 民主党が態勢を立て直すことになれば、今度は麻生政権が改めて問われることになるだろう。 

 一時は10%台前半に落ち込んだ内閣支持率こそ上向きだしたものの、世論調査では相変わらず6割の人が麻生内閣を「支持しない」と答えている。軽く見ていい数字ではない。 

 麻生首相で本当に選挙に勝てるのか、そんな不安の声が再び自民党内で大きくなる場面もあるかもしれない。 

 次の総選挙を、真の意味で国民による政権選択の選挙にすること。それが政治、とりわけ2大政党の自民、民主両党に課せられた責任だ。 

 深刻な不況をはじめ、少子高齢化、人口減少などさまざまな面で、日本は大転換期にある。そんな中で迎える総選挙だ。両党とも指導者の魅力と政策の説得力を競わねばならない。どちらが先に態勢を整えられるか。残された時間は少ない。 


小沢代表辞任 世論に追い込まれた末の退場(5月12日付・読売社説)


 厳しい世論に追い込まれた末、「政治とカネ」に関する説明責任を果たさないまま、遅きに失した退場と言えよう。

 民主党の小沢代表が記者会見し、辞任する意向を表明した。西松建設の違法政治献金事件で公設秘書が逮捕、起訴された問題の責任を取ったものだ。

 小沢代表は、「来る衆院選での必勝と、政権交代の実現に向け、挙党一致の態勢をより強固にするため、あえてこの身をなげうつことを決意した」と強調した。

 大型連休中に進退問題を熟慮した結果、自らの辞任が次期衆院選での民主党の勝利に貢献する、と判断したという。

 ◆説明責任は果たされず◆

 小沢代表は公設秘書の政治資金規正法違反罪での起訴後、いったんは代表続投を表明した。

 だが、党内では、「小沢代表の下では次期衆院選を戦えない」との危機感から、代表の自発的辞任を求める声が広がっていた。小沢代表は、この声を覆すだけの反論ができなかった。

 小沢代表は、「この種の問題で起訴という事例は記憶にない」などと検察批判を展開したが、政治家に極めて近い公設第1秘書が起訴された事実は重い。

 今後、秘書の公判が始まれば、小沢代表側と西松建設との関係が国民の目にさらされるだろう。建設会社から長年、巨額の政治献金を受け取る行為は、古い自民党的な金権体質そのものだ。衆院選への影響は計り知れない。

 読売新聞の最新の全国世論調査では、小沢代表続投について「納得できない」との回答が7割を超えている。

 一時は20%を切った麻生内閣の支持率は上昇し、30%に迫りつつある。麻生首相と小沢代表のどちらが首相にふさわしいかという質問でも、麻生首相が小沢代表を上回り、その差を広げている。

 こうした厳しい世論の背景にあるのは、小沢代表が西松建設事件の実態について、説明責任を果たしていないことだ。

 鳩山幹事長らは再三、小沢代表に国民向けの説明を行うよう進言したが、実行されなかった。小沢代表の辞任記者会見でも、事件で「心配をかけた」支持者への謝罪はあっても、政治献金に関する具体的な説明はなかった。

 小沢代表は自らを「口べた」と称するが、野党第1党党首として首相を目指す以上、そうした言い訳は通用しない。自らの立場を国民に説明し、理解を得るのは、首相に不可欠な基本的資質だ。

 民主党の国会対応が最近、精彩を欠いていたのも、小沢代表の進退問題と無縁ではない。

 小沢代表が避け続けていた首相との党首討論も、ようやく13日開催が決まったが、小沢代表辞任で再び先送りされる。

 ◆民主党は政策を見直せ◆

 民主党に今、求められているのは、迅速かつ民主的な手続きによる後継選びと、新たな党首の下での結束だろう。後継代表には、岡田克也副代表や鳩山幹事長などの名前が挙がっている。

 次期衆院選が迫る中での代表交代だけに、党内には、混乱を懸念する声もある。

 民主党は、小沢代表ら自民党出身者のほか、旧社会、旧民社党系など、様々な出身の議員で構成される「寄り合い所帯」の政党だ。小沢代表以外に党を束ねる強力な指導者がいないというのが、代表続投の主な理由だった。

 だが、小沢執行部の退陣は、小沢代表主導による政局・選挙一辺倒の姿勢を是正し、政策の見直しを図る好機でもある。小沢代表が決定した政策や方針には異論を唱えられないような風潮は当然、改めるべきだ。

 民主党はかねて、最低保障年金制度や子ども手当の創設など、20兆円以上の新規政策の財源が不明確だ、と批判されている。今後、社会保障費の増大が見込まれる中、消費税率の引き上げを封印したままで本当によいのか。

 民主党の弱点とされる外交・安全保障政策の論議も、避けてはなるまい。インド洋での海上自衛隊の給油活動やソマリア沖での海賊対策などで、より現実的な政策を打ち出し、政権担当能力を示すことが必要ではないか。

 ◆衆院選の時期にも影響◆

 小沢代表が新体制でどんな役割を担うかも一つの焦点だ。

 小沢代表はこの20年間、常に日本の政界で重要な地位を占めてきた。代表辞任が「小沢時代」の大きな節目となるのか、あるいは影響力を保持し続けるのか。

 民主党の代表交代は、今秋までに必ず行われる衆院解散・総選挙にも影響するだろう。

 民主党の新たな代表と執行部、その打ち出す政策が、国民にどんな評価を受けるのか。麻生首相はその点を見極めながら、解散のタイミングを探ることになる。

 自民、公明の両与党も、漫然と対応することは許されまい。政権公約(マニフェスト)の策定・充実などを通じて、新しい民主党との政策競争の準備を急ぐことが求められよう。


毎日新聞社説
小沢氏辞任表明 やっと政治が動き出す


 民主党の小沢一郎代表が11日、代表辞任を表明した。今年3月、公設第1秘書が政治資金規正法違反容疑で逮捕されてから2カ月余。世論調査では辞任を求める声が一貫して6割以上に上り、国会も民主党が守勢に回って緊張感のない審議が続いてきた。このままでは次の衆院選に大きな影響が出ると考えたのだろう。むしろ遅すぎる決断だった。

 しかし、小沢氏の進退問題という呪縛から民主党はやっと解き放されたと前向きにみることもできる。近づく政治決戦に向け、民主党は新代表のもと早急に態勢を立て直さなくてはならない。そして機能停止のような状況に陥っていた政治が再び動き出すことを望みたい。 

 ◇決め手は厳しい世論
 連休中に熟慮したという小沢氏はこの日の記者会見で「政権交代の目標を達成するには党内の結束・団結が不可欠だ」「私が代表にとどまることで挙党一致に差し障りがあるとすれば、それは本意ではない」と何度も強調した。

 民主党内では小沢氏辞任を求める声が公然と出ていた。事件の引責辞任ではなく党内の結束が乱れるのを避けるため辞任するということなのだろう。捜査状況や今後、公設秘書の裁判がどうなるかという見極めのほか、衆院解散・総選挙が近いとの判断もあったと思われる。

 だが、小沢氏の進退を決した一番の要因は、世論の厳しさではなかったろうか。

 衆院選を間近に控えた時期に東京地検特捜部が捜査に乗り出したことに対しては「小沢氏をねらい撃ちしたものではないか」という疑問が多くの国民の間に今も残っている。しかし、その一方で、毎日新聞の4月の世論調査では「小沢代表は直ちに辞めるべきだ」が39%、「衆院選前に」が33%で合わせて72%に上り、他の調査でもこうした声は決して収まることはなかった。

 毎日新聞も小沢氏は自ら身を引くべきではないかと再三、指摘してきた。小沢氏が否定しようとも西松建設側が公共工事受注に何らかの期待があって献金したと供述している。利権をめぐりカネと票が動くことこそ、政官業癒着の本質であり、族政治そのものだ。ところが小沢氏は自民党政治を打破するといいながら、なぜ、ゼネコンから巨額の献金を受け続けてきたのか。素朴な疑問に小沢氏は結局答えられなかった。

 次の衆院選で首相を目指す民主党の代表が「古い自民党の体質を引きずっている」と多くの有権者を失望させた責任は大きい。決断が遅れたことを含め、そうした点に関して、小沢氏が記者会見でほとんど言及しなかったのは残念だった。

 小沢氏は06年4月、偽メール問題で前原誠司氏が代表を辞任した後、代表に就任した。07年7月の参院選で圧勝し、とかく「風」任せの選挙を続けてきた民主党議員に「地元回り」の必要性を説く一方、支持組織固めも進めた。 

 ◇与党の戦略も変化
 1989年、自民党幹事長に就任以来、小沢氏は絶えず政界の中心にいた。自民党当時の「普通の国」論など日本政治の先駆的役割も果たした。ただ、自民党顔負けのバラマキ型政策を重視する姿勢には民主党内に異論も多かった。国連中心主義の外交理念も党全体のものにはなっていない。党首討論をはじめ、表舞台に顔を出したがらない姿勢に疑問を感じる議員も多かった。

 オバマ米大統領に見るように、日本でもオープンな場で、強く分かりやすいメッセージを国民に向けて発信する力がリーダーには求められている。密室での駆け引きに剛腕を発揮してきた小沢氏だが、今回の辞任はそうしたスタイルの政治が終わりを告げていることも意味しているように思われる。

 民主党は新たな代表選びに入る。今のところ、代表経験者の岡田克也副代表を推す声が中堅・若手に強い一方、鳩山由紀夫幹事長や菅直人代表代行の就任を求める声もある。

 小沢氏の進退問題で揺れている間、次期衆院選のマニフェスト作りも停滞しているのが実情だ。言うまでもなく衆院選は、政権と首相を国民が選択する選挙だ。この首相候補のもとで、どんな政策を実施し、日本をどう具体的に変えていくのか。代表選びは、党の顔と党の政策を一致させ、国民に分かりやすく提示する形で進めてもらいたい。

 今年度補正予算案など国会審議も緊張感が薄れている。何より民主党が早期の衆院解散・総選挙を求めなくなったのが大きな要因だ。新代表と新執行部は直ちに国会運営の立て直しも進めなくてはならない。

 新代表以下、民主党の新体制をどう国民が評価するか。それ次第で、麻生太郎首相はじめ与党の解散戦略も大きく変わるかもしれない。政治が動き始めることを期待しよう。


産経新聞社説
小沢代表辞任 判断遅すぎ、信頼を失う 後継選びで基本政策を競え
2009.5.12 03:37
 
このニュースのトピックス:国会
 民主党の小沢一郎代表が、西松建設の違法献金事件をめぐる混乱回避を理由に、代表を辞任すると表明した。

 そもそも小沢氏と一心同体である公設第1秘書が、政治資金規正法上の違法行為を犯したとして逮捕・起訴された事件である。当初から小沢氏の政治的かつ道義的な責任は明確であり、代表辞任は遅すぎたと言わざるを得ない。

 秘書の起訴後、小沢氏は1カ月以上、代表に居座り続け、巨額な政治資金の使途などについて説明しようとはしなかった。きわめて遺憾であり国民の信を失っていることを理解していない。離党もしくは議員を辞職するような事態であることを認識すべきである。

 小沢氏の続投を容認し、秘書逮捕から2カ月余にわたり、十分な自浄能力を発揮できなかった党執行部の責任も重大だ。

 新代表選びでは、信頼回復の方途を模索すると同時に、基本政策を含めた論争を徹底すべきだ。

 小沢氏は会見で「今日でも政権交代は可能だが、さらに万全にするため」と辞任の理由を述べ、続投への批判が党内外にあり、自分自身が挙党態勢の支障になっている点は認めた。

 ≪説明責任は果たされず≫

 同時に「衆院選を通じた政権交代の実現が国民生活重視の政治への転換を可能にする」と述べ、新体制を支えていくという名目で引き続き衆院選対策の実務に取り組む強い意欲も隠さなかった。

 これでは、辞任要求が拡大する前に自発的に辞任し、影響力を残したということではないのか。小沢氏は「政治資金について、一点のやましいところもない」と強調したが、事件について反省し、説明責任を果たそうとはしなかった。辞任するだけで、違法献金事件の批判や疑念を一気に払拭(ふっしょく)できると思っているのだろうか。

 政治とカネをめぐる国民の政治不信を増幅させたのに、こうした辞め方が党の信頼回復に結び付くとは思えない。民主党は自民党よりもクリーンな政党だというイメージを、大きく壊した事件であることを忘れてはなるまい。

 事件の説明責任が消滅するわけではない。有権者は新体制がどれだけ自浄能力を発揮できるか厳しい視線を向けるだろう。

 この5年間を見ると、平成16年に菅直人氏が年金未納問題、17年には岡田克也氏が衆院選敗北、18年には前原誠司氏が偽メール問題で、それぞれ任期途中で代表を辞任した。

 小沢氏自身、16年にいったん党代表に内定した後、年金未加入問題で就任を辞退したことがあるほか、19年には自民党との大連立構想をめぐり混乱を招いたことから辞意を表明し、その後撤回した経緯がある。

 ≪個人依存から脱却を≫

 小沢氏が19年の参院選を勝利に導き、政権交代の可能性を高めた力量、手腕が大きいことは多くの人が認めるところだろう。しかし、そのために「政局至上主義」と呼ばれる国会戦術を押し通し、社民党などとの野党共闘を優先した。外交・安全保障政策がゆがめられていないか。異論を唱える動きが広がりを持たない党の現状を直視する必要がある。

 今回の事件でも、小沢氏個人の力量に依存しすぎていたために、有権者の多数が辞任を求めていても、党内で党首の責任をほとんど追及しなかった。その背景にも、党内での政策論争の不足が指摘されよう。

 今国会で、民主党はソマリア沖での海上自衛隊を主体とした海賊対策に強い疑問を示し、海賊対処法案の早期成立に応じようとしていない。

 在沖縄米海兵隊のグアム移転をめぐる日米両国の協定締結承認案には、反対の方針をとっている。日米同盟や国際協調行動にかかわる具体的な政策対応で、民主党の政権担当能力を疑わせる事例が進行している。

 新代表選びに手を挙げる候補者は、こうした基本政策に関する論争を避けてはなるまい。

 内閣支持率の急落などで、一時は政権の危機も取りざたされていた与党は、小沢氏の秘書の逮捕起訴という「敵失」によって息を吹き返したにすぎない。

 民主党の新体制にどう対応するのか。自民党への不信は払拭されていない。

 違法献金事件では、複数の自民党議員への資金提供をめぐる疑惑も指摘された。政治資金の透明化へ与党の努力が必要なことに変わりはない。

東京新聞社説
小沢民主党代表が辞任 態勢立て直しを急げ
2009年5月12日

 小沢一郎氏が民主党代表を辞した。不信を晴らせず総選挙の陣頭に立てるはずもない。自然な結論だろう。失った信頼回復へ党の態勢立て直しが急務だ。

 ある程度予想はされていても、いざそうなってみると衝撃度は大きい。政権選択の総選挙決戦を目前に、野党第一党の党首が司令塔降板を宣言したのだから。

 辞任表明の記者会見に小沢氏は吹っ切れた表情で登場し、挙党一致へ身を投げ出す、と述べた。

 進退があいまいなままでは、近づく総選挙を好機と位置づけてきた政権交代は幻になる。民主の大勢は代表辞任を好感し、一方、自民など与党からは、民主支持率の復調を警戒する声が出た。

 世論に逆らえずついに
 西松建設の違法献金事件で秘書が逮捕・起訴された。小沢氏は記者会見を重ねたが、説明責任を果たしていない、辞任すべきだ、との世論は各メディアの調査でもすさまじく、六割を超していた。

 しかし小沢氏は「当面」の条件付きで続投を表明、「総選挙勝利を行動基準に判断する」と進退の最終判断を先送りしてきた。

 三年前の代表就任以降、参院選圧勝などで政権に手が届きそうなところまで党勢を拡大した。

 総選挙で勝ち、政権交代できるのも自分、との自負から、この窮地も脱出できると考えていたかもしれない。総選挙を前に野党を狙い撃ちにしたかのような東京地検の捜査に、納得がいかないとの憤慨もあったのだろう。

 だが、かつて自民を離党して政治改革の旗を振った当人が、古い自民の象徴といえるゼネコンからの巨額献金集めをしていた。世間は失望し、疑念を持った。

 「政治とカネ」を抱えた「小沢首相」を想像できる国民はまずいない。それ以前に首相候補として総選挙を戦えるはずもない。世論に追い込まれた格好だ。

 後継選びが党の試金石に
 世論が求めた「説明責任」は、言ってみれば「辞任要求」であったのだ。辞任の最終決断まで小沢氏や周辺が多くの日数を要した。遅きに失した感は否めない。

 小沢氏は辞任表明会見で、自ら身を引くことで挙党一致をより強固にする、それが政権交代の大目標につながる、と語った。

 違法献金事件については「一点のやましいところもない。政治的責任で身を引くのではない」と気色ばんだ。

 多額のゼネコン献金を必要とした理由は何か。多くの国民は小沢ファンも含めて聞きたかったのではないか。辞任会見でもここを避けたのは遺憾である。

 十三日には麻生太郎首相との党首討論が予定されていた。

 首相は小沢氏の辞任について早速「何について責任を取ろうとしているのか、なぜ今なのか、国民は理解できないのではないか」とこき下ろしている。

 国会日程を飛ばすのは、らしいといえばそれまでだが、小沢氏は敵に背を見せてしまった。

 民主党はその答えを用意しなければならない。速やかな後継代表の選出と、国会終盤に臨む態勢の立て直しである。

 「西松建設ショック」以降、民主は事件の負い目もあってか、国会論戦で迫力不足が目についた。企業献金全面禁止の主張も、議員の世襲制限も、有権者には“当座しのぎ”としか映っていない。

 党の危機対応能力が疑われる事態は遅まきながら辞任会見で決着した。

 党内に反転攻勢のムードは高まろうが、失地回復は簡単なことではない。早速問われるのは、後継の新代表を混乱なく選べるかである。お家芸ともいえる騒動が続くようでは、民主への失望を増幅することになりかねない。

 陰に陽に辞任を迫ってきた反小沢派と小沢支持グループとの確執を不安視する向きがある。右から左までの出自や政策、路線の違いから、互いにこの人物だけは新代表に受け入れたくない、という陰口も飛び交う。

 後継選びの過程そのものが政権交代への試金石になりそうだ。自民などから聞こえる「政権を担当するには未熟」批判に応えられるか、ぜひ大人の対応を見せてもらいたいものである。

 総選挙へ事実上のカウントダウンが始まっている。民主党は小沢氏が必ずしも熱心でなかったマニフェスト(政権公約)を完成させる作業を加速させるべきだ。

 首相も解散で応えよ
 新代表のもとで民主は国会論戦を再活性化し、政権与党との対立軸を国民に明示することだ。

 「敵失」で支持率が回復傾向の首相にも、同様の注文をしておきたい。野党党首交代で衆院解散・総選挙は遠のく、との観測もあるようだが、それではいけない。

 歴史的決戦にふさわしい態勢づくりは与野党双方の責務である。

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